胡桃の庭
ロマーナのページ 6
「え?…そうでもないような……でも、魅力はあるけど
……でも、どうして?」
「だってロマーナったら、ブルーノの自慢話ばかりする
じゃない。あれまではあなたから男の子の名前すら聞く
ことなかったわ」
「そうかしら、でも、ただ、私には、絵の話が好きだし」
「いいのいいの、あなたはとっても優しい女の子だから
車椅子のあの人、似合いよ」
「だったら言うけど、おしゃべりのソフィアはいろんな
男の子を話題に出すけど、ブルーノのことなんか全然、
聞いたことないわ。秘密みたいに」
「まあ、いいのよ、仲よくおやりなさいな。どうせ私は
去って行く女よ、涙を流す男の人は1ダース半よ」
「何なの?」
「クラスの男子とシルバーニ先生よ。−−引っ越しの話
はいやね……−−そうだわ、私、木曜日おばさんのうち
へ行くの。なかなか行けなくなっちゃうし、何日か泊ま
るつもりよ。−−帰ったら、出発まで一週間くらいしか
ないわね」
ロマーナは何も言わず、小川を見つめた。
>< ><
ロマーナはソフィアが居なかったその短い間、毎日を
もの寂しい思いで過ごした。慣れなければならないと思
えば思うほど胸が苦しくなった。−−そんなわけでソフ
ィアが帰るであろう日の午後、彼女はソフィアのところ
へ走った。
「こんにちは」と、何度か呼んでも返事がない。ロマー
ナは裏庭へまわった。
そこにある古い長椅子にソフィアの祖母は掛けている。
と、本を閉じて立ち上がる。厚い雲が光を遮ったからだ。
「おばあさん、こんにちは」
「ああ、ローちゃん。ソフィアはいないよ」
「まだ帰ってないの?」と言うと、咳込む。
「おや、風邪かい?」
「ええ、ちょっと。−−あら、あんな所に鳥篭」
「ああ、ソフィアが枝に掛けたんだよ。−−雨が降るよ、
早くお帰り」
「ええ、そうします」
お婆さんがうちへ入ってしまうと、ロマーナは篭に駆
けてゆく。鳥の姿も声もない。次の瞬間、少女は息を呑
んだ。目の前には、まぶたを閉じ横たわっているロッテ
があった。ロマーナは手に取ると涙で覆われた目で空っ
ぽの餌受けを確認した。とりあえず座り込むしかなかっ
た。やはり、すぐに、雨は降り始めた。
『ソフィアはあの日、言ったように、自分独人でめん
どうみてたんだわ。ロッテはここの家に飼われてたんじ
ゃなく、ソフィアに飼われてたんだわ』
だからソフィアが居なくなっても誰も鳥の餌のことなん
か気がつかなかったのだとロマーナは思った。彼女は冷
たくなってしまった小鳥を抱いて、そこを離れた。
雨はひどくなりロマーナは走り出した。が、優しく抱
いて駆けたおかげで、小鳥は振動に堪える必要はなかっ
た。
>< ><
F
[庭に帰る]